TS冒険記 ネイノーさん、散る


ネイノーさんの冒険が始まってまもない頃、ある出会いがありました。





「さびた鎖」がどうしても欲しくて、でも2時間くらいドリルで掘っても出てきません。


しかたがないので、


「求)さびた鎖」



という要請看板を出しながら、ドリルを続けていたのです。





すると、


「倉庫に余っているので、差し上げますよ」


と1:1を下さる方がいました。



私は何度もお礼を言いながら、待ち合わせ場所に向かいました。





メガロポリスの右下にあるワープ地点に、その人はやって来ました。


直接会うまで気付かなかったのですが、その親切な人は、私と同じ、狐でした。


でも、私よりも遥かにレベルが高いことは、装備品や、何より転職しているので、


一目瞭然でした。




「今、レベルはいくつですか?」



と聞かれたので、



「21です」



と答えると、



「もう少しで、サクサク上がるようになりますよ。


頑張って下さい」



と言ってくれまる。



自分よりずっと上級者のプレイヤーと話すのは初めてでした。


強いモンスターのいるフィールドになんて行ったことがなかったし、


街で、見たこともないような格好いい出で立ちで、


私が聞いてもちんぷんかんぷんな話をしている。



今まで接点がなくて、レベルの高い人にはなんだか怖いイメージがあったけど、


優しいことを言ってくれる人もいるんだな、と思ったのを覚えています。




鎖は本当にただで貰ってしまいました。


しきりに恐縮する私に、その人は、



「もしよかったら、転職に必要なアイテムを引き取って下さい」



なんて言い出したのです。




それらの品も、持てるだけの量を戴いてしまいました。



私は嬉しくて嬉しくて、怖いもの知らずの強みで、友達登録をお願いしました。




「転職できたら、真っ先にメモを送ります!」



と私は言いました。



その人は快くOKして下さり、


「楽しみにしています。


また何かあったら、気軽にメモを下さい。お手伝いできるかもしれません。


最近、目的を見失っているので、使ってやって下さい」


と言って、去っていきました。





あれは何という装備だったんだろう。


あの人の装備しているあの素敵な帽子はなんだろう。




冒険を続けていくうちに、その人が装備していたのは


「スワンプハット」という、LV80から装備できる帽子でした。




いつの間にかネイノーの目標は、転職、そしてLV80、この二つになりました。




LV80になったら、まだTSを始めたばかりの人のお手伝いをするんだ、



と心に決めました。





LVがだんだん、ゆっくり上がっていくにつれて、その人がINしているのを目撃する事は


少なくなっていきました。


本当に、「目的を見失っ」て、TSをやめてしまったのかな、と私はぼんやりと


彼女を懐かしみました。




最後にその人と偶然会ったのは、クリスマスの時の公式イベントでした。




隣のフィールドにいる事がわかり、挨拶をしようと近づく私。


ドリルをしているその人の横で、ピコーンと太陽のエモティコンを鳴らします。


すると彼女もすぐに気が付いてくれて、



「ハッピーバレンタイン」スキルを打ってくれました。



ハッピーバレンタイン……通称ハピバレ。


私からすれば考えられないような高額で、取引されているスキルです。


攻撃力はなく、ただ相手にハートの波を飛ばし、当たると可愛らしく弾けるというもの。


高いLVの人は、みんな持っています。



私の最終目標は「ハピバレ」を買うこと、と決まりました。




転職できた時、真っ先にメモを送りました。



「おめでとうございます」という返信を見た時は、感無量でした。



本当ならここで、友達登録を解除してもらうこともできたのです。




でも、私は見栄っ張りなので、それを言うのはよしました。



彼女に「一人前になった」と思ってもらうには、



スワンプハットを被って、ハピバレを打って見せなくては!





もちろん、その人を密かな目標にしているとか、


認めてもらいたがってるとか、本人に言ったことはありません。



ギルドの皆に「銭ゲバ」と言われながら、私はハピバレの資金稼ぎに奔走します。


自然とLVも上がっていきます。




スワンプハットを被れるようになったばかりのネイノーさんの姿は、


TS冒険記その2 ネイノーさん」(←飛びます)


で見られます。



あとはハピバレ。ひたすらドリル。



背伸びして、高LVのフィールドで掘ってるから、死にまくってもドリル。




そして、ついに、ついに、




ハピバレを売ってもらう事ができました。






満足と同時に、私は気が付いていました。



もう、TSでその人の姿を見かけることは、全くなくなっていたのを。






でも、損をしたとは思っていません。



狐として冒険を続ける意思をくれたあの人には、ただ感謝と、尊敬の気持ちだけが


あるのです。


いずれは彼女のように、誰かのお手伝いをしてあげたい、誰かに目標と


されてみたいのです。






……今ココ。



現在、バレンタインイベントの真っ最中です。



そんな真夜中に、ふとフレンドリストを開いてみると……







「いたぁーーーーーっ!! 




○○さんINしてるーーーーーーーー




っ!!!!」




ショートカットにハピバレをぬかりなくセットして、





いざ彼女の元へ……




ハッピーバレンタイーン!!



乱射!乱射!!











……せずに逃げてきました。






私はひたすら、あの人の反応が怖かったのです。






ハピバレを飛ばされた彼女は私に気付くと、きっとこう言ってくれるでしょう。








「あ、




ネイノーさんももらえたの?





ハピバレ。





よかったですね〜!」





※今年のバレンタインイベント

「チャガンとみんなのハッピーバレンタイン」


内容……モンスターを倒すクエストと、


ドリルを使用する収拾クエの二種類。


報酬として、スペシャルスキル「ハッピーバレンタイン」が配布される。




















畜生めがッッッ!!!






「いえ、イベント前に6000万で買いました」




なんてマヌケな事言えるかタコ助が!!



このコロ助!!




サノバビッチなりよ



キテレツ〜!








ネイノーさんが「一人前」になる日は、いつなんでしょうか。







エースをねらえ!  1 (ホーム社漫画文庫)

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