第五十八回 朝のひとこま
睡眠不足の頭で、中央線に乗り込んだ。
ほそ長い列車は奥へ奥へ走っていく。
私が本から目を離すと、もう終点に着いていた。
「東京、東京」
スモッグで真っ白な街が、ホームの窓から見えた。
天ぷら粉の看板、赤と白に構えたクレーン、ばらばらなビルの谷、
その中から白い煙をぼわ、ぼわ、ぼわ、
途切れず噴き出す。
そのせいで、東京の街は真っ白だ。
山肌を滑り降りて道路を伝い、また舞い上がって空へのぼる。
この国の真ん中には、東京を煙で覆い尽くすほどの、
巨大な工場が建てられてしまった。
睡眠不足の頭は、本気でそう考えた。
実際はホコリの付いたホームの窓が、風景を白く霞ませるくらい汚れているだけだった。
私の頭ではなく、凄いのは、そうなっても不思議じゃないと思わせるこの世、
そして東京だ。
- 作者: 睡眠障害の診断・治療ガイドライン研究会,内山真
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