桜の森の満開の下(トリックスター+仕様)


桜の森の満開の下 (講談社文芸文庫)

桜の森の満開の下 (講談社文芸文庫)



※本文を、ネット上で読むことができます。(こちら



※上の本文を読む際の注意!


水琉さん曰く


怖くて読めなかった



程度に、数箇所グロがあります。





あらすじ


中世の日本。
鈴鹿峠を根城にするその山賊は、男は殺し、気に入った女は我が物にして、今では7人の女房を持つに至っていた。
鈴鹿峠はすべて己の領土と見なしていた山賊だが、山中にある桜の森だけは、魔物が住む場所だとして、決して立ち入ろうとはしなかった。
そんなある春の日、桜が満開になった頃。山賊は都からやってきた、美しい女に出会う。
女の美しさに心を奪われた山賊は、女を妻にするが、やがて彼女の言うなりになっていき…。


(あらすじはこのページ(←飛びます)からコピペ)




登場人物



・山賊


・女


・七人の女房


・びっこの女


・女の夫


・旅人


・ナレーター



【登場人物に関する留意点】


・原作では七人の女房とあるが、人数に不都合があれば減らしてもよい。


・現代において「びっこ」は差別用語なため、単に「醜い女」とした方が無難。


・ナレーターは一回のセリフが長いので、複数人いた方が負担が少なく、
各人の出番も増やせると思う。





シナリオ




【シーン1・桜の魔力とある男】


舞台の真ん中にナレーター登場。
説明的なセリフを喋って退場。

【シーン1について】



・次のシーンが夜なので、夕暮れ時に始めるのがのぞましい。


・ナレーターのセリフは以下、本文の簡略版です。


桜の花が咲くと
人々は絶景だの春ランマンだのと陽気になりますが、
これは嘘です。
なぜ嘘かと申しますと、
大昔には、桜の花の下は怖しいと思っても、
絶景だなどとは誰も思いませんでした。
桜の花の下から人間を取り去ると怖ろしい景色になります。
昔、「鈴鹿峠」という峠も、
桜の森の花の下を通らなければならないような道になっていました。
花の咲かない頃はよろしいのですが、花の季節になると、
旅人はみんな森の花の下で気が変になりました。
桜の森の下を通らないで、別の山道を歩くようになり、
やがて桜の森は街道を外れて、
人の子一人通らない山の静寂へとり残されてしまいました。
そうなって何年かあとに、この山に一人の山賊が住みはじめました。



【シーン2・鈴鹿の山賊】


山道。
旅人、右手から現れる。
すっかり暗くなってしまったので、急いでいる。
左手から山賊登場。
金品を強奪。
旅人、逃げ去る。

山賊はその場に座り込んで、奪ったものの鑑定を始める。
都の人間だけあって、成果は上々といったところ。
ふと、ここが桜の森の下であることに気付く。
なんだか恐ろしい、嫌なものだ、と呟く(本文参照)
桜の魔力によって幻聴や幻覚を感じ、恐ろしさに家へと逃げ帰る。


【シーン2について】



・山賊は野蛮で強そうな衣装。


・旅人は都から来たという設定なので、裕福そうな衣装が好ましい。


・山賊は左手から登場とあるが、舞台を生かして、あれば桜の木の陰から躍り出ても
効果があるかもしれない。


・金品を奪うシーン、倒れた旅人が500ゲルダクーポンや黄金を投げ捨て、
山賊が拾うという演出はどうだろうか。


・幻聴、幻覚を感じるシーンのセリフ例


「ん……風か?」
(数秒沈黙)
「いや……今日は風なんか吹いていない」
「風はないのに、どうして桜の花びらは散るんだろう」
(数秒沈黙)
「なんだか、俺の命まで」
「一枚花びらが散るごとに、衰えていきそうな……」
(立ち上がる)
「ここにいると、本当におかしくなりそうだ」
立ち去る。






【シーン3・ナレーション】


ナレーター登場。
月日の経過を説明。
立ち去る。


【シーン3について】


・ナレーターのセリフ(本文の簡略版です)


山賊はずいぶんむごたらしい男で、
容赦なく着物をはぎ人の命も断ちましたが、
こんな男でも桜の森の花の下へくると、
やっぱり怖しくなって気が変になりました。

けれども山賊は落付いた男ですから、
これはおかしいと考えたのです。
ひとつ、来年、考えてやろう。
そう思いました。
今年は考える気がしなかったのです。
そして、来年、花がさいたら、そのときじっくり考えよう。
毎年そう考えて、もう十何年もたち、今年も又、年が暮れてしまいました。
始めは一人だった女房がもう七人にもなり、
八人目の女房をまた、さらってくることにしました。





【シーン4・8人目の女房】


夫と妻、右手から登場。
夫、山道なので妻を気遣いながら歩く。
山賊、左手から登場。
夫を殺す。
女、気が強い感じで、殺すことはないだろうと咎める。
山賊は、女が美しすぎたからだ、と無愛想に言う。
そして女に、以後自分の妻になるように言う。
女、しぶしぶ承諾。
山賊、女を連れて左手に退場。

【シーン4について】



・女は絶世の美女なので、それっぽい格好を。


・夫、殺された後、携帯でメガロへ飛ぶ。
(移動可能なのは確認済みです)


・女は実は人間ではなく「鬼」なので、山賊は女の美しさに幻惑されたような独り言を
入れるのがいいかもしれない。


・女は退場する際、不便な山道に文句をたれる。
夫を殺されているのに我儘ほうだいで強気な性格をアピール。


・女の口調については、昔っぽく「〜かえ」などと語尾を換えてもよいかと。





【シーン5・桜の森と魔性の女】


山賊と女、左手から。
山賊の家に到着。
女房達が待っている。
女房達、口々に女の美しさを褒める。
女、山賊に、彼女らが目障りだから一人残らず殺すように命じる。
女中、散り散りに逃げるが、一人を残して切り殺される。
一番醜い女房は恐怖のあまり動けない。
女、その女房だけは女中に使うと言って殺させない。
山賊、ほっとして、気疲れで座り込む。
そして、この女が、なんとなく桜の森に似ているな、と考える。

【シーン5について】



・女房たちは、生き残るびっこの女をのぞいて、なるべくきらきらした衣装で。


・びっこの女は一番醜いという設定なので、ぼろっちい衣装で。


・女房たちを切り殺す際の問答はこんな感じ(本文より)
山賊「だって、お前、殺さなくっとも、女中だと思えばいいじゃないか」
女「お前は私の亭主を殺したくせに、自分の女房が殺せないのかえ。
お前はそれでも私を女房にするつもりなのかえ」



・最後の山賊のセリフ例(本文の簡略版)
「ああ……なんだかどっと疲れが出た」
(座り込む)
(舞台の前のほうにたたずんでいる女の方を見る)
「なんてキレイな女だろう」
「目も魂も吸い寄せられそうだ……」
「でも、どうして俺はこんなに不安なんだろう」
「そうだ、あれだ」
「この女、桜の森の満開の下に」
「どこか、似ている……。」






【シーン6・桜の森との約束】

山賊の家。
女とびっこの女房、右手から。山賊は左手から。
女と山賊。びっこの女、女の後ろで着替えの手伝い。
女、都へ帰りたいとだだをこねる。
山賊は承諾するが、びっこの女、桜が満開になったと告げる。
山賊、今年こそは桜に脅かされずに耐えてやろうと思い立ち、
約束がある、と言って、ひとり桜の森へ。
三人退場。山賊は左手、女とびっこの女房は右手。


・着替えの手伝いの演出の例だが、女が立っていて、後ろにびっこの女が座っている。
「これはどうでしょう」などとびっこの女が言うと、女は装備を変える。
わがままな女という設定なので、数回行ってはどうだろうか。


・都へ連れて行くように命じる女と、山賊の会話の例(本文より)


・「お前の美しい着物や髪飾りは、みんな都の物なのか」
 「そうさ」
 「都には牙のある人間がいるかい」
 「弓をもったサムライがいるよ」
 「ハッハッハ。俺は谷の向うの雀の子でも射落すぞ。
  都には刀が折れてしまうような皮の堅い人間はいないだろう」
 「鎧をきたサムライがいるよ」
 「鎧は刀が折れるのか」
 「折れるよ」
 「俺は熊も猪も組み伏せてしまうのだからな」
 「お前が本当に強い男なら、私を都へ連れて行っておくれ。
  お前の力で、私の欲しい物を私の身の廻りへ飾っておくれ。
  そして私にシンから楽しい思いを授けてくれることができるなら、
  お前は本当に強い男なのさ」
 「わけのないことだ」



・桜の森へ行こうとして、女を説得する際の会話の例(本文より)


(山賊の独り言)
「そうだ、今年こそは……
桜の森の花ざかりのまんなかで、身動きもせずジッと坐っていてみせる。
都へ行くのはそれからだ」


(以下、女との会話)


「お前、どうしたえ。とりつかれたような顔をして」
「なあ、ちょっとだけ待っていておくれ」
「どうして。支度に時間が掛かるとは思えませぬ」
「それでも約束があるからね」
「この山奥で誰と約束したのさ」
「それは誰もいないけれども、ね」
「誰もいなくって誰と約束するのだえ」
「桜の花が咲くのだよ」
「桜の花と約束したのかえ」
「桜の花が咲くから、それを見てから出掛けなければならないのだよ」
「どういうわけで」
「花の下は冷めたい風がはりつめているからだよ。
 花の下は……果てがないんだ」
「私も花の下へ連れて行っておくれ」
「それは、だめだ。
「一人でなくちゃ、だめなんだ」





【シーン7・今年もダメだった】

山賊、桜の森に到着。
去年と同じように幻聴、幻覚に悩まされ、一目散に逃げる。

【シーン7について】



・セリフ例(本文の地の分をセリフに起こしたもの)


(山賊、座って)
「本当に満開だ……」
「寒い……なんという寒さだろう、春なのに」
「ああ……苦しい。」
「しっかりしろ、風なんて吹いていない」
「うわぁぁっ……!」
「風がっ、風がっ!」
「いやだ、こんなはりつめた風の中じゃ、息が……!」
(走り出す。ぐるぐる回る)
「ぜえ…はあ……」
「息が……息が苦しい」
「今年もダメだったのか……誰か……」
「助けてくれ……」
(よろよろと退場)





【シーン8・都ぐらし】

ナレーター登場。
山賊と女、左手から。びっこの女、右端へ出てきて座る。
女、座って山賊に背中を向け、生首で遊んでいるのを男が眺めている。
ナレーター、状況を説明。すぐに退場。
山賊、都に退屈し、山へ帰ろうと思い立つ。
びっこの女は都が楽しい様子。
女に「山へ帰ろう」と懇願するが、聞き入れてもらえない。
山賊は追い立てられるように外へ出る。
女とびっこの女房も退場。


【シーン8について】


・ナレーターのセリフ例(本文の簡略版です)


男と女とビッコの女房は、都に住みはじめました。
男は夜ごとに、女の命じる屋敷へ忍び入りました。
着物や宝石や装身具も持ちだしましたが、
女の何より欲しがるものは、その家に住む人の首でした。
彼等の家にはすでに何十の首が集められていました。
女は毎日首遊びをしました。
死んだ人の生首と生首を、まるで人形遊びのように玩具にします。
ここで女のセリフ。
「ほれ、ホッペタを食べてやりなさい。ああおいしい。
姫君の喉もたべてやりましょう。
ハイ、目の玉もかじりましょう。
すすってやりましょうね。ハイ、ペロペロ。
アラ、おいしいね。ほら、ウンとかじりついてやれ」
男は、その残酷な遊びの何が楽しいのか、理解に苦しみました。
ですが、男は何よりも退屈に苦しみました。



・その後の山賊のセリフ例(本文の地の文をセリフに起こしたもの)

「都ってのは、人間ばっかりでつまらんなァ」
「田舎者が来た、と笑われるばっかりだ」
「たいがい、俺のこの大きい体が珍しいんだろうが……」
「俺は嫌いなんだよ……誰かをひがんだり嫉んだりするのが。」
「山の獣や樹は、うるさくはなかったがなぁ……」



・その後、びっこの女房に話しかける。セリフの例(ほぼ本文のまま)


「都は退屈なところだなア。お前は山へ帰りたいと思わないか」
「私は都は退屈ではないからね。だって、
 近所の人とお喋りができるから。山は退屈で嫌いさ」
「お前はお喋りが退屈でないのか」
「あたりまえさ。誰だって喋っていれば退屈しないものだよ」
「俺は喋れば喋るほど退屈するのになあ」
「お前は喋らないから退屈なのさ」
「そんなことがあるものか。喋ると退屈するから喋らないのだ」
「でも喋ってごらんよ。きっと退屈を忘れるから」
「何を」
「何でも喋りたいことをさ」
「喋りたいことなんかあるものか。
 ふわ〜ぁ……、退屈だ、退屈だ」


・その後、首遊びにふけっていた女は山賊に声をかける。



「ねえ、
今夜は遊女の首を持ってきておくれ。
とびきり美しい白拍子の首だよ。
舞いを舞わせるのだから」
「俺は厭だよ」
「なんだって?」
(笑う)
「おやおや。お前も臆病風に吹かれたの。お前もただの弱虫ね」
「そんな弱虫じゃないのだ」
「じゃ、何さ」
「キリがないから厭になったのさ」
「あら、おかしいね。
 毎日毎日ごはんを食べて、キリがないじゃないか。
 毎日毎日ねむって、キリがないじゃないか」
「それと違うのだ」
「どんな風に違うのよ」
「ふん、お前に話してもわからんよ」
(立ち去ろうとする山賊に、女が言う)
「遊女の首をもっておいで!約束だよ!」






【シーン9・鈴鹿へ帰ろう】


屋敷を飛び出した男は、女を殺すことを考える。
気が付くと山の中に立ち尽くしている。
朝になって目が覚めると、桜の木の下で眠っていた。
鈴鹿峠の桜の森がなつかしまれ、屋敷へ戻り、
女とともに山へ帰ることにする。
びっこの女房は都へ残すことにするが、女は、じき帰ってくるから待っておいで、
とひそかに言い残す。
(その理由は、山への恋しさが満たされた暁には、男を都へ連れ戻す自信が
女にあったからである。)

【シーン9について】


・家を飛び出した男のセリフの例(本文の地の文をセリフに起こしたもの)


(走りながら舞台の真ん中へ)
「ハァ……ハァ……」
「何が違うのかなんて、俺にもわからないさ」
「でも、この苦しさは」
「空が落ちてくるような苦しさは……」
「あの女を殺してしまえば、止める事ができる」
「いや……恐ろしい。帰りたくない」
「苦しい……家に……帰りたくない……。」
(眠る)



・屋敷に戻ったときの問答(本文より)


「どこへ行っていたのさ」
「……すまなかった」
「無理を言ってお前を苦しめてすまなかったわね。
 でも、一人ぼっちだった私の淋しさを、
 察しておくれな……」
(女、背を向ける)
「お前がそんな優しいことを言ってくれるなんて……
 いいかい、よく聞いてくれ。
 俺は山へ帰ることにしたよ」
(女、振り向く)
「私を残してかえ。
 そんなむごいことがどうして言えるの?
「お前はいつからそんな薄情者になったのよ」
「俺は都がきらいなんだ」
「私がいてもかえ」
「俺は都に住んでいたくないだけなんだ」
「でも、私がいるじゃないか。
 お前は私が嫌いになったのかえ。」
「だって、お前は都でなきゃ住むことができないのだろう。
 俺は山でなきゃ住んでいられないのだ」
「私はお前と一緒でなきゃ生きていられないのだよ。
 私の思いがお前には分らないのかねえ」
「でも俺は山でなきゃ住んでいられないのだぜ」
「だから、お前が山へ帰るなら、私も一緒に山へ帰るよ。
 私はたとえ一日でも、お前と離れて生きていられないのだもの」
(女、男に抱きつく)
「でも、お前は山で暮せるか?」
「お前と一緒ならどこででも暮すことができるよ」
「山にはお前の欲しがるような首がないのだぜ?」
「お前と首と、どっちか一つを選ばなければならないなら、私は首をあきらめるよ」
「本当か? 嬉しすぎて、信じられないくらいだが……
 そうと決まったら、早速出発しよう!」






【シーン10・桜の森の満開の下…】

山道。
男と女、ゆっくりと歩きながら右手から登場。
桜の森に到着。
ふと、握っている女の手が冷たくなっていることに気付く。
男は、女の正体が実は鬼であることがわかる。
鬼は男の首を絞めて殺そうとするが、男の反撃により鬼の方が殺される。
ふっと正気に返ると、鬼は女の姿に戻り、死んでいる。
号泣する男。
女の体は桜の花びらとなってかき消える。
その花びらを掴み取ろうとした男の体も消えている。
あとにはただ、花びらと、冷めたい虚空がはりつめているばかり。

【シーン10について】



・セリフの例(本文を参考にしました)


「さあ、山が見えた。なんと懐かしい眺めだろう」
「ああ疲れた、もっとゆっくり歩いておくれな」
「はっはっは、すまない。
 あんまり幸せな気持ちなんで、つい足が速まった」
(女が止まって座り込むので、男も立ちどまる。女に背を向ける格好)
(男の独り言)「もうすぐ、あの桜の森の下へ出る。
しかし、この幸福な日に、あの花盛りの下が何だというのだろう」
さあ、もう少しだ(女を促し、一周ほど回る。)
おお……
満開だ!
鈴鹿峠の桜は、一面の満開だ!
頭の上も、足の下も、薄紅色の一色だ!
さあ、行こう。
(男と女、連れ立って一歩づつ歩き出す。端から端へ移動するように)
おや……段々寒くなるようだね……
大丈夫かい、お前?
手を握ってあげよう。
(男、女に近づく)
うっ……!
(男、ひざまづく)
冷たい……なんという手の冷たさだ!」
女「…………」
男「わかったぞ……お前は、鬼だったんだな!」
(女、鬼っぽい衣装に変装)
女「…………」
(男、寝る。女、その上に座り、首を絞める)
男「くっ、なんて力だ!
……負けるか……鬼め!
今度は俺の番だ!」
女「!」
(さっきとは逆の態勢になる)
男「死ねっ!死ねっ!!」
女「ア……アッ……!」
(数秒沈黙)
(男、女から離れながら)
「ハァ……ハァッ……!」
(座り込む)
「どうして……どうして……!」
(倒れている女を振り返って)
さっきまで、お前は鬼の顔をしてたよな……?
なのに、どうして…
俺の妻の顔で死んでるんだ……!?」
(倒れている女にかけよる)
「う……うわぁぁぁぁーっ!!!
お前、お前っ!
目を開けてくれよぉぉ!
すまなかったよ!
痛かったよなぁ!
頼むから!頼むからよぉ!
お前っ……!!!」
(数秒沈黙、立ち上がって舞台中央へフラフラ歩いてゆく)
「お前たちが見せたのか……?
なぁ、桜の森……。
お前達が見せた、幻覚だったのか……?
そうだよなぁ……
俺の嫁さんが鬼だなんて、
ありえないものなぁ……
ハハ……。
(座り込む)
おかしいな……
(数秒沈黙)
ここは、桜の森の丁度真ん中あたりのはずなのに……
全然俺、恐ろしくないや……。
あの、冷たい風も吹かない……。
(左を向く)
「まあ、それもそうだよな、だって……
俺にはもう、帰るところがないんだから」
女(倒れたまま)「そうだよ、あんた。
ここに満ちているのは『孤独』。
あんたはもう、孤独を恐れる必要がないんだ。
だってもう、お前みずからが、孤独そのものなんだから……。」
男「ああ……なんて満開の桜なんだ。
その上には空、無限の空しかない。
それだけのことなんだ……」
(男、女に向き直る)
「なんだお前、顔の上に花びらが散っているじゃないか。
どれ、俺が取ってやろう」
(男、ゆっくり近づく。女のそばに辿り着く前に、女は消えてしまう)
「おや……? 消えてしまったぞ。」
(観客のほうを向く)
「なんだか、俺のこの手も、どんどん透明になってゆくぞ……。
そうか、そういうことだったんだな。
あとには花びらと、冷たい虚空がはりつめているばかり
そういう趣向なんだな……。」
(男、消える)





・女が鬼に変わるシーンでは、スキルの使用によって
オーラっぽいものをまとうのもいいかもしれません。
ただ、その際に気を付けたいのは、あとで女の姿に戻るとき、
オーラをまとっていてはまだ鬼の姿のままのような感じなので、
男のセリフに違和感が生じます。
なので、この場合はスキルを掛ける人が本人でない場合のほうがいいかもしれません。
その場合の手順を箇条書きにします。
①女にスキルをかける人(以下術者)が、事前に女とPTを組む。
②スキルを使用する場面になる前に、術者は「女が自分の画面内にいて、なおかつ
観客からできるだけ離れている所」に移動しておく。
③その場面になったらスキルをかける。
④女が元に戻る場面になったら、PTを解除する。(スキルが切れます)
(その前にスキルが切れるくらい時間がかかるのであれば、本人によるスキルの使用が
いいですね。)


・男と女の消えるシーンは、例によって携帯を使用。
土壇場で焦らないように、ショートカットに携帯を入れておくとよいかも。


・最後は花火でしめたいですね。