第百九回 楽園志向
オンラインゲームは、楽園ではないのか?
近頃ネイノーさんの中の人はそんな事を考えています。
この世は地獄、苦界憂き世。
ゲーム世界はこの世をなぞって造られたものでありながら、
外敵を一瞬で排除できる、死も衰えも病気もない楽園です。
オンラインゲーム「トリックスタープラス」には毎日何百人という人が集まり、
この、匂いのないドット絵の島を満喫しています。
なぜ、ネットゲームにいるのか?
なぜ、家に帰って一人になっても、他人と触れ合おうとするのか?
その答えは人それぞれですが、多くの「冒険者」の初期衝動の根底には、
この『楽園志向』があるのではないでしょうか。
私の分身、「ネイノー」さんは、冒険者でありながら劇団に入り、稽古をし、
街で宣伝をし、お客さんに喜んでもらうのを生きがいにしています。
いつか、自分で脚本を仕立てた『シラノ・ド・ベルジュラック』で、主人公シラノを
演じるのが夢だそうです。ちなみに『白野団十郎』では嫌だそうです。
弟分の「人見広介」は、落語家になりたいそうです。
彼らにとって、歩いてすぐの所にある、街のステージは人生そのもの。
その夢が、ネットの海のどこに漂っているのかは別として……。
『楽園志向』は宗教に似ています。そもそも楽園という言葉が宗教用語ですよね。
そして、多くの冒険者たちはゲーム世界を離れてゆきます。
楽園はなかったという事を悟るのです。
「ここに楽園はあるかな?」
「ここでずっと笑って暮らすことはできるかな?」
それは他人が存在する以上、叶わないことなのです。
オンラインゲームでいう『冒険者』とは、未開の地を踏破し、モンスターの首を
持ち帰る戦士を指すのではなく、欲得ずくの人間関係、それも、
チャットのみが許される純化した自己表現の衝突の連続という修羅場を潜り抜けられる
人間のことを指すのだなぁ、と、最近はつくづく思います。
もうね、「人間関係」で悩んでる仲間、ムッチャ多い!
それならやめちゃえよ! と何度思ったことか。でも言わない。
なぜなら、私も楽園を信じているからです。
エデンを追われたヒトの子孫は、サイバー空間にフロンティアを築く。
もしかしたら、エデンを取り戻そうとする我々は、アダムとイブよりは堕天使に
近いのかもしれません。リンゴマークのあの会社は蛇ですね。
しかし、夢の終わりはもうすぐそこまで、迫っているような気がする。
悟りの時間が近づいてくるような。
最近とくにそう思います。
狩りに行くにもお薬代がない時とか。
オンラインゲームは、楽園ではないのでしょうか。
- 作者: 今市子
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