第九十八回 乱歩する


久生十蘭の文庫本を古本屋で買ってきて、
ごろごろしながら「久しく生きとらん、食うとらん」と呟いていると、
何だか考えがペンネームの事に及んで、


「くたばってしめー→双葉亭四迷、なんて逆立ちしても思いつかないな」
「本名が芥川龍之介だったらプレッシャーかかるな(誰に?)」
「イーデス=ハンソンが好きだから半村良(良=いいです)っていうのは妄説だっけか」


と、まだゴロゴロしていたんですが、ハタと
「『乱歩』って日本語、ないよね?」と思い辞書を紐解くと、案の定ない。
もちろんこのペンネームは、ポーのもじりだから意味なんて求めてないんだろうけど、
「乱歩」という歩き方があるのだとしたら、それは一体どういう歩き方なのか?
その歩き振りは屋根裏の散歩に似ているだろうか?


久々に漢和辞典を引っ張り出してみた訳です。





「乱」
乱れる、順序がばらばらになる、揃わないこと、散らばる、混乱する、入り混じる、
礼儀を失う、規律が破れる、みだらな事をする、騒ぎが起こる、暴れる、乱す……



おおまかに「乱」の意味を挙げるとこのようになります。



確か、谷崎潤一郎が「文章読本*1の中で「歩く」の同義語とそのニュアンスの差異を
丁寧に書いていたけれど、
一体「乱歩」はどういう風に歩くさまを指すのか。
多分、


・歩き方そのものが普通じゃない、おかしい、バラバラである


か、


・歩いている人の心身に何か異変が起きた為、結果として歩き方がおかしくなる



の、どちらかだと思うんですよね。




前者は簡単です。





絶対にスキップです。



でなければすり足かムーンウォーク



ダンスのステップやケンケンは、あまり「歩」という感じがしませんよね。





後者の場合、これはかなり多岐に渡っている気がするんですけど、
ここで「ペンネーム図鑑」(←飛びます)なるサイトに載っていた、


酔っぱらって江戸川堤をふらふら千鳥足で歩いている自分を想像して「江戸川乱歩
とつけたという説もあるが、本人は否定している。


というエピソードにより、有力候補が一つ消えてしまいました。
いいセン行ってると思うんですが。
結局自力で思いつくしかないようです。



という訳で、私の考えた「乱歩の歩き方」は以下の通り―――




①不審者が目当ての幼女を待ちながらうろうろしている感じ


②「先輩まだかしら」などとやっぱりソワソワうろうろした足取り


③考え事をしながら歩いていたら7キロ位歩いているケース。メディテーション系。


④怒りに任せて(痴話喧嘩とかで)家を捨てよ、街へ出よう的な歩き方


⑤単なる迷子


⑥雑踏(←19世紀っぽい)


⑦「困ったなー困ったなー」とぼのぼの風な歩き方



「イーッヒッヒヒヒヒヒ」


「アッヒャッヒャッヒャッヒャ」


「wwwっうぇwwwwwっうぇww」



ドグラマグラ的な歩き方*2





どうでしょうか。
かなりいいセン行ってると思うんですが、どれが正しいのかは誰にもわからず、
例の乱歩土蔵(リンク)に篭って懊悩し抜くしかないようですね。



人見広介は、乱歩が大好きです。ハンドルネーム見ればわかりますけど……。





*1:凄く面白い本だけど、一番痛快なのは解説で吉行淳之助が、文中で絶賛されていた志賀直哉城之崎にて』を、「ちょっとクドいんじゃないの」とバッサリ切っている所だと思います。

*2:ちなみに読んだ事はないんですが、あらすじ聞いちゃったのでイマイチ手に取りたくないのでした。